コラム #2 私の研究ルーツ
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私の研究の系譜は,浦野良美先生の研究室にさかのぼります。その流れを受け継がれた渡邊俊行先生は,建築内外(躯体と空間)の熱の動きを,時間遅れを伴う非定常現象として精緻に解く「逐次状態遷移理論」を確立されました。渡邊先生のご指導のもとで,私の研究テーマは熱だけでなく水分へと広がっていきました。
私は大学院修士課程では「水分蒸発によるパッシブクーリング」,博士後期課程では「降水の影響を考慮した建築の熱負荷」について研究しました。そのため,熱と水分の連成現象を表現する数式は,当時からの重要な研究テーマでした。学生時代には,松本衛先生が提案された,温度と水分化学ポテンシャルを水分移動の駆動力とする熱・水分連成方程式(いわゆる松本モデル)を用いていました。
松本モデルは非常に優れた理論ですが,工学的な取り扱いを重視した構成となっていることから,非平衡熱力学により厳密に準拠した数理モデルを構築したいと考えるようになりました。そこで私は,水分流(気相水分および液相水分)をエネルギーの流れとして捉え,示強性変数と示量性変数の積で表される熱力学ポテンシャルの概念を水分に拡張し,「水分ポテンシャル」を定義しました。
水分ポテンシャルは熱力学的な状態量であるため,この勾配(あるいは差)を水分移動の駆動力とすることで,水分ポテンシャルを基準とした熱・水分複合移動方程式(偏微分方程式)を導くことができます。
話を戻すと,大学院修士課程当時の研究室は,浦野良美教授,渡邊俊行助教授,林徹夫助教という体制で,後期博士課程には龍有二先生がおられました。私はこれら4名の先生方から直接ご指導いただけるという,大変恵まれた環境にありました。
建築熱環境を記述する理論を理解することと,それをコンピュータで解くことは別の課題です。数式を展開し,プログラムコード(Fortran)として実装し,コンピュータで実行する方法やエラーの対処についてご指導くださったのが林先生です。当時は九州大学電算センターの大型汎用コンピュータを使用していました。
また龍先生には,最も身近な先輩として,実験手法や数値計算手法,結果の解析方法に加え,図表の作成や論文の書き方に至るまで,研究の基礎から応用まで幅広くご指導いただきました。
当時の九州大学環境・設備研究室は,実験によって観測された現象は必ず数値計算で再現できるはずであり,理論で説明できない現象はないという姿勢のもと,建築物理に基づく伝熱理論研究において世界をリードしていました。この考え方は,現在に至るまで私の研究スタイルの根幹となっています。